戒名はいらない?つけないといけない?戒名は必要かどうかお悩みの方へ

更新:2023.08.20

私が葬儀の場面でよく尋ねられるもので「戒名はつけないといけないものですか?」という質問があります。

お悩みになる方は多いのだろうと思い、この記事では戒名はつけないといけないものなのか。

この点について解説させていただきます。

戒名とは

戒名とは仏教徒になる証として、俗名とは別のお名前を授かることを言います。

亡くなった死者に対してつけるものではなく、仏門に入った時につけるものです。

つまり死者に対して成仏を約束する約束手形として存在しているわけではありません、死とは本来関係のないことなのです。

仏門に入った者が授かるものなので、仏門に入っていない方はつけなくても構わないものになります。

戒名は亡くなったら授かるものというイメージが定着した理由

以前は納骨時に戒名が必要になることが多々ありました。

お墓自体が現代のように多種多様ではなく、お寺の管理する墓地に納骨する方が多かった時代、お寺の墓地では俗名(生前のお名前のまま)では納骨することが出来ませんでした。

これが遠因で生前に戒名を授かってなかった方は、葬儀の場で戒名を授かるのが通例になっていきました。

「戒名は亡くなった時にいただくもの」というイメージが定着していった遠因だと思われます。

戒名がないと納骨できないという認識を持っていらっしゃる年配の方は今もいらっしゃいます。

戒名はなくても良いのではと考える方の増加

現代では親世代と子世代で別々の土地で暮らすことも多くなり、お寺との付き合いも葬儀や仏事以外では接点がないという方も多くなりました。

日常から仏教が疎遠になり、お葬式の場ではとりあえずお経があった方が良いという理由で仏式の葬儀を行う方も多くなっています。

このような方々が戒名の必要性について疑問を感じるのは無理もありません。

筆者が現場でよく見聞きするのが「お経はあった方が良い。戒名はよくわからない。」

「お経は欲しい。だけど戒名はなくていい」

読経の需要は高いのだけれども、戒名はそこまでの需要には至っていないと感じます。

戒名料に対しての高額なイメージも拍車をかけている気がいたします。

この場合は結局、戒名をつけていただくことが多いのですが、その理由は次でご紹介させていただきます。

お葬式の戒名についてお寺の立場

生前に戒名をいただいている方が圧倒的に少ないため、日本の仏教寺院の多くはお葬式の中で戒名を授ける儀式として「引導」を行います。

お葬式には宗派ごとに立派な式次第があります。

「引導」は葬儀式次第の中でもメインイベントに位置付けられます。

ですから「読経はお願いしたい、だけど戒名はいらない」という家族の声は、お寺に対して葬儀のメインイベントは要らないと言っているようなものになります。

お寺としては到底受け入れられるものではありません。

お顔の表情に出すお寺様は少ないですが、心の中ではさぞ悲しんでおられお寺様もいらっしゃるはずです。

つまり、読経をお願いする=戒名をお願いするのが基本的な考え方になります。

現在の納骨と戒名の関係性

現在は民営の墓地や納骨堂では戒名がなくても不自由になることはありません。

宗教不問の納骨堂、樹木葬、散骨、民営の霊園、いずれも戒名がなくても困ることはありません。

例えば戒名を授かっていない山田太郎様の遺骨が納骨される際は「山田太郎之霊」とお墓に記します。

通常通り納骨できますので、仏教への信仰心が特にないという方は、戒名をつける必要はないと言えます。

火葬のみ、直葬を行なった方でも困ることなく、多種多様な納骨が出来る時代になっています。

死後に戒名をつけるのは日本独自の文化

仏教の発祥の地、インドでは戒名の文化はありません。

お釈迦様も戒名がないと成仏できないとは一言もおっしゃっていません。

日本の仏教はインドからシルクロードを経由して中国、朝鮮から渡ってきました。

仏教徒が俗名ではなく戒名を授かるというのは中国で生まれたとされますが、死後戒名をつけるのは日本独自の文化です。

日本の仏教は、それまでの日本の風習や日本人の感性も大事にしながら独自の発展を遂げてきたと言えます。

祖先が帰ってくるというお盆の風習も日本独自のものになります。

最後に

ここまでご覧いただいた方は、筆者を戒名はいらないと考えている人と思われるかもしれませんが、筆者は決して戒名はいらないと考える否定派ではありません。

個人の考え方によるものと考えますので、否定も肯定もありませんが、戒名の存在は日本人らしさがあって良いと思っています。

日本人は年始には初詣へ行き、今年一年も家族平穏に暮らせますようにと願います。

お盆にはご先祖のお墓参り、春秋にはお彼岸もあります。

ひな祭りでは女の子の健やかな成長を願い、節分には豆まきで1年の無病無災を願います。

全て記載すると長くなるので割愛しますが、日本人は節目には何かを行い、験を担ぐことを好む文化があります。

戒名もその一つになっていると思うのです。

普段は特に仏教は信仰していないけれども、戒名がないと故人が成仏できないのでないかと不安になる方は、信仰しているものは皆救われるという仏教の教えを頼りに、戒名を授かることが心の拠り所になる場合もあるでしょう。

「生きているうちにもっと親孝行しておけばよかった」

「もっと話をしておけばよかった」

「もっと色んなことを一緒にしたかった」

残された家族のやり場のない思いを戒名に託す方もいらっしゃいます。

少しでもお慰めになるなら、少しでも前を向いて歩き出す力になるなら、戒名の存在は日本人にとって救いになることもあるのです。

戒名はお葬式が始まるまでにつける、つけないを判断しないといけないものではありません。

本来は生きている間に授かるもので、お葬式につけるものではないため、お葬式が終わってからでも授かることは可能です。

ですから迷われる方は葬儀後にゆっくりお考えになってから判断するという選択肢もあることを念頭に、ご家族で納得のいく答えを出していくと良いでしょう。

この記事を書いた人

廣田 篤  広島自宅葬儀社 代表

葬儀業界23年、広島自宅葬儀社代表。厚生労働省認定技能審査1級葬祭ディレクター。終活カウンセラー。前職大手葬儀社では担当者として 1500 件、責任者として1万件以上の葬儀に携わる。実母の在宅介護をきっかけに広島自宅葬儀社を立ち上げて現在に至る。広島市内だけでなく瀬戸内海に浮かぶ島々から、山間部の世羅町、神石高原町まで広島県内あらゆる地域の葬儀事情に精通する広島の葬儀のプロ。身内の死や介護の経験、数々の葬儀を通じての縁から「死」について考え、文章にすることをライフワークとしている。

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